書状
安藤太郎会長の傍若無人を叱る

 天にかわって住友不動産会長、安藤太郎氏に物を申す。
 天にかわってとは大袈裟なと思われるかも知れないが、応々にして天は、私ごとき地位も名誉も金もない一庶民の口を通して大事を語らせる。心して聴いて頂きたい。
 君は、この十六日(六月)の東京新聞で、”虎ノ門を分散せよ”というタイトルの、まことに大仰なるインタビュー記事を載せている。まあそれはいい、ただその中で、
 会長はことし一月、右翼に「地上げ批判」で自宅を襲われたが。
 という質問に対し、次のように応えている。
 「あの事件は悪い職員が、地上げ屋の借金を会社とは関係なく保証した。そこで右翼がその借金を払えと会社に言ってきたのを、総務部の窓口でパッパッと追い払った。お金でもやれば済んだのでしょうが・・・。そのために右翼が自宅へいやがらせに来て、金のことでは格好が悪いからああした大義名分を使った」
 私はこの下りを一見して唖然たらざるを得なかった。何たる下賤、何たる不見識。
 この程度の人間が、財界の指導者を任じ、国土審議会の会長を努めているのかと思うと、腹が立つというより、ケタケタ笑いたくなってしまう。
 なぜ君は、ありもしない作り話まで弄して、保身に汲々とするのか。君は「右翼がその借金を払えと会社に言ってきた」と断じているが、これは誠か?断っておくが、私を含めて、少なくとも右翼民族派の正統をつぐ者が、君らごときゼニゲバと化した輩のところへ、ビタ一文金の要求などに行くものか。もしなんなら、正々堂々と、いつ、誰が金の要求に来て、いつ誰が、総務部の窓口でパッパッと追いかえされたのか明らかにしてみたまえ。作り話もいい加減にしてもらいたい。
 ましてや「お金でもやれば済んだのでしょうが・・・」とは何事か。私、及び私の同志は、天地神明に誓って、君らごとき金権亡者に、ビタ一文金銭の要求などしたことはない。
 嘘だと思うなら、君の自宅を襲撃した事件の裁判を担当した裁判官に聞いてみたまえ。いいですか安藤太郎氏よ、裁判官はあの裁判の判決に際し、以下のような私見を述べているのですよ。
 「暴力に訴えたことは、民主主義への挑戦であって許し難いが、被告人たちが、私利私欲で行動に出たのではない事は認める。特にこの裁判をして感銘したことは、被告人たちが運動を金にしていなかったことです」
 この裁判官の言葉は、いまでも私の胸中に響いている。マスコミは「民主主義への挑戦であって許し難い」と言ったことだけを報じて、後段を報じていない。だから一般の人達はこの事実を知らない。それをいいことに、こともあろうに新聞にでかでかと、よくもああいう捏造の言を弄してくれた。
 まあそれはいい。我々さえその屈辱に耐えればすむことだ。看過ならざることは、今回の一連の不祥事を、まるで他人事のように弁じていることだ。
 去年暮れに自宅へ発破装置をし掛けられたのに続き、この一月十三日には自宅を襲撃され、その行動を「断固支持する」と北海道から上京して来た青年に住友銀行が襲われ、さらにNECの小林会長宅発砲事件、住友銀行糞尿事件等々、すべて君安藤太郎氏、または住友不動産を中心に騒ぎが広がっている。この事実に対して、いささかの反省もみられない。
 君は先の『フライデー』という写真週刊誌にも、「あれは悪い一社員のやったこと」と述べているし、今回の東京新聞にも会社とは関係なくやったと言っている。だからまるで自分には責任がないのだと開き直っている。
 暫時心して聴きたまえ。百歩譲って君の言が正しいとしても、少なくとも君の会社、君のところの社員が原因で、かかる仕儀と相成ったのだから、君は少なくとも社会に対し、自分の不徳を詫び、自分の不明を詫びるべきではないのか。一社員がやった事だから、自分には毫も責任がないかの如きふるまいは、財界の指導者の立場にいる君の、見識の低さを物語る以外のなにものでもない。
 第一君は「悪い一社員」がやった事と言っているが、彼らは一社員とか一職員で片付く立場の人間ではあるまい。少なくとも大浜某は住友不動産○○部の部長だったのではないのか。一社員が、勝手にそこら辺のサラ金に借金をして、不祥事を起こしたのとは意味が違うだろう。
 昨今の地価の暴騰の責任を、君一人に押しつける心算は毛頭ない。しかし現実に、地上げにからむ放火、サギ、暴力沙汰は新聞報道だけを見ていても、目を覆うばかりのものがある。この眼下の情況を見ていても君にはひとかけらの反省もないのか。私ら如きゴミさえ、放火された家の人、ダンプを突っ込まれた家の人を思って、胸が痛む。東大を出て、財界のトップに立った君らには、社会の底辺にうごめく人々の痛みや悲しみは、まるで無縁と見える。何たる情けない世相のことか。
 君は十六日の新聞で、こうも言っている。
 「ウチはこの十年間、土地転がしはやっていない。七、八年前、ビルを造るために土地をいろいろ買って、ビルの数も増え急成長したが、それでなにかと他社からのそねみもあって(住友不動産が)悪く言われている」
 これは何だ。この厚顔さは何だ。
 他社のそねみどころか、住友不動産内部にさえ、君に対する批判は渦を巻いている。よくもまあ、ぬけぬけと「他社のそねみ」だの「悪い一職員」だの寝呆けた発言が出来るものだと、感心する。
 それだけではない。さらに看過ならざることがある。それは、マスコミの口封じに、金をバラ撒きはじめた事だ。知らないとは言わせない。
 あの一連の事件で、君はマスコミから思いもかけぬ批判攻撃を受けた。本来は同情されるべき被害者が、逆に批難されるという、前代未聞の醜態をさらす結果になった。恐れをなした君は、急遽、「広報室」を創設し、その室長に北川文男氏を当て、メジャーは勿論、二流、三流の週刊誌にまで、広告代金を名目とした金をバラ撒きはじめたのである。広報室長の北川文男氏と室長補佐の伊藤亮三氏が、君、または高城信一郎社長の意を受けて、マスコミ関係者のところを、ウロつきまわっていることぐらい、とっくに情報が入っている。マスコミのアキレス腱は広告代だ。そこを狙ったのである。何という浅はかな奴かな。
 編集者や記者の中には、正義感に燃えた連中も少なくない。彼らの反発を買っていることを知っているか。世の中、金で頬を打たれて、ハイつくばる人間ばかりだと思っているようだが、それは錯覚というものですよ。
 もう一つ言っておこう。君は官房長官の後藤田正晴氏と、高校時代の同級生とかで、かなり昵懇のようだ。それはいい。しかしそれを吹聴して歩くのはいかがなものか。君が後藤田に依頼して事件の決着を計ったことも、君の口からモレている。依頼を受けた後藤田長官の意を受けたY衆議員議員が動いた事実も知っている。
 これではもう暗黒ではないか。権力をバックに、金をバラ撒き、新聞できれい事を述べ、やっていることは金権亡者。加うるに私の事務所に拳銃まで撃ち込んで来ている。勿論、君が指示したなどとは思っていない。しかし一連のこうした不祥事が、君を中心に惹起されている。
 よくマスコミで、暴力団の悪業が指摘されている。しかし、君らの悪業ぶりから見れば、暴力団のワルなど可愛いものだ。
 あの大戦の終結に際し、今上陛下がマッカーサーの許へ出向き、
 「文武百官は自分が任命した。したがって一切の責任は自分にある。それより、いま国民が餓えのために困窮している。何とか将軍の力によって国民を餓えから救って頂きたい」
 と申されたのは有名である。「文武百官は自分が任命した。したがって一切の責任は自分にある。」何という美しい言葉かな。安藤太郎氏よ、どうか、日本人の心と魂をとりもどして下さい。
 私事にわたって恐縮だが、私は私の父を最も尊敬している。その父は、君と同じ明治の生まれで同じ年齢だ。何も今上陛下のお言葉をおかりするまでもなく、私の父でも、もし自分の会社の幹部が、かかる不始末をし、地価暴騰の一因を招来していることを知れば、いさぎよく自らの責任を認めるであろう。そして心して、自らの為すべき態度を明らかにすると思う。
 戦前、昭和維新運動に身を投じた青年達が、好んで口ずさんだ歌がある。安藤太郎氏よ、知っていますか。

 権門上に傲れども
 国を憂うる誠なし
 財閥富を誇れども
 社稷を思う心なし

 二度と再び、純心の青年達が、この歌を唄って決起する時代を招来してはならない。二度と再び、日本を亡国の道へとみちびいてはならない。

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